フランスガム社 aki kobayashi インフォメーション      イラスト、文章の無断使用・転載をお断りします
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カテゴリ:おはな詩( 3 )
フランスガム真梅雨劇場〜雨垂れ交響曲〜
d0120991_2230115.gif
 雨はもう幾日も降り続いていました。
ひとりの女が今日も この線路ぞいの土手へやってきました。
女は、紫色のレインコートを羽織り、雨傘をさしているにもかかわらず、
その髪や頬はびっしょりとぬれておりました。
 女の名前はアジサキ・サイコといいました。アジサキ・サイコは、
毎日正午を知らせるサイレンが鳴るとどこからともなく現れ、
夕方6時のチャイムが流れるまで、ずっとこの土手に立っているのです。
何をする訳でもなく、ただ空を見つめるようにして佇むその姿には、
どこか寂しげで得体の知れぬ憂いが漂うのでした。

 アジサキ・サイコには、夫と2人の子供がおりました。
夫は、カタツムリ社という運送会社の長距離トラックの運転手で、
勤務の折には家を何日も留守にしました。
アジサキ・サイコは2人の子供と一緒に、小さなアパート「雨垂れ荘」で
しずかに夫の帰りを待っているのでした。
 長距離トラック運転手の夫と結婚する前、アジサキ・サイコには、
将来を誓いあった婚約者がおりました。
婚約者の名前は、アメカワ・アフルといいました。
とても気性の荒い男で、すぐにアジサキ・サイコを大きな声でどなりつけたり、
ぶったりしました。アジサキ・サイコは彼のそんなところに悩まされながらも、
本当は彼の優しいことを知っていたので、耐え忍びました。
なにより彼の描く7色の絵画はほんとうに優美であり、
この世のすべての罪や悪をつつみこんでくれるような気がしたのです。
(人々はその絵を虹と呼びました。)

 しかし、アジサキ・サイコの両親は、
アメカワ・アフルとの結婚を許しませんでした。
親戚が経営するカタツムリ社の社員である、今の夫との縁談をすすめ、
ふたりを結婚させてしまいました。母親は満面の笑みでこう言いました。
「平穏を誇る天下のカタツムリ社の社員であれば安心ね!」
 アジサキ・サイコは、夫を愛していないわけではありませんでした。
穏やかな夫と穏やかな子供との穏やかな生活は、アジサキ・サイコにとっては
幸福とも呼べるものでした。しかし、何かが足りないのです。

 そして雨の降る音がすると、アジサキ・サイコはたまらずに外へ出てゆくのです。
昔よく、アメカワ・アフルと雨の降りしきる中、手をつないで土手を走り抜けたことを思い出しながら。

 線路ぞいの土手では今日も紫陽花がその美しい色を雨に滲ませております。


彼女の頬がぬれているのは、雨のせいだけではないのです。
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フランスガム出版『フランスガム花詩集』2005 より抜粋


(おまけ)雨垂れ交響曲 第二番「悲愁」
        軒下のためのパート譜 
     ((clickするとちょっと見えるかも))

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by francegum | 2009-06-21 22:35 | おはな詩
春のフランスガム小雪劇場〜早すぎた春〜


d0120991_0335495.gifウメノクラ・ウメコは、古書店「塩梅堂」のひとり娘でした。
塩梅堂では主に哲学書を扱っておりましたが、ウメコは哲学に
はまったく興味がありませんでした。

「人生は、物語であるべきだわ。」

そうつぶやき哲学書の埃をはたきながら、小説の頁をめくるのでし
た。愛読書は流行の恋愛小説「カメオとツルエット」。


ある寒い日の夕方のことです。ウメコはいつもの様に店番の
レジ台の横で、小さな電気ストーブにあたりながら、「早すぎ
た春」という小説を読んでおりました。

入口の引き戸が開き、ひとりの青年が背をかがめながら中に
入ってきました。(塩梅堂の入口の扉はとても低かったのです)
青年は帽子を目深にかむり、この季節には寒いであろう薄手の
コートの襟を立て、狭い店内にひしめきあう本棚の中の本を、
1冊づつ引きぬいてはめくり、棚に戻すのでした。隅から隅ま
で見終わるとレジの横に積み上げられている、まだ値段をつけ
ていない本の山を指差してウメコに言いました。
「この一番上の本が欲しいんだけど。」
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ウメコの心臓はドキンとし、いつもかけている大きな赤い眼鏡
がずりおちました。(お風呂に入る時と涙を拭う時以外は眼鏡を外さないのです...もちろん眠っている時も、夢がよく見えるようにね)

塩梅堂にくるお客さんは、顔馴染みの近所のおじさんか青春
を大分すぎた年齢層が主でしたので、年頃のウメコは若い男の
子と言葉を交わす事に慣れていなかったのです。
もちろん、小説にでてくるような恋はまだしたことがありませんでした。

__こんな時、「氷の恋人」の主人公の女の子ならこう言うわ。
  最初は冷たい一言で、逆に相手に興味を抱かせるのよ。

「あなたに売る本なんてないわ。」

青年は驚いた様子でウメコを見ると、苦い笑いを浮かべなが
ら、また背をかがめながら扉をくぐって出てゆきました。

「へんね、相手はここで 『何度でも来るよ』 といって花を差
し出しながらあたしの手に口づけをする筈なのに...へんだわ!」



 ウメコは首をかしげながら、ずり落ちた眼鏡をなおし、小説
の最後の文を読みました。

『物語の始まるには、あまりに早すぎたのであろう。』


 外では、小さな梅のつぼみがふくらみ始めておりました。



フランスガム出版『フランスガム花詩集』2005 より抜粋
by francegum | 2009-02-28 00:43 | おはな詩
秋のフランスガム特設劇場 〜キンモク・セイラのお話〜
 バレエ教室の帰り道 キンモク・セイラは
今日クラスの子が言っていた噂話について考えていました。
その子のいとこのお姉さんの友達の友達のペンフレンドの通っている塾の先生の姪っ子の知り合いが
愛に押し潰されて亡くなったという噂話でした。
「愛、ってそんなに重いものなのかしら...。」
 夕飯のミート・ボールを食べながら
キンモク・セイラは さっきの噂話を思い出しました。
「ねえ、ママ。愛、って重いものなの?」
ママは笑いながら答えました。
「そうね。愛、には重さがないのよ。
ほら、こんな小さなミート・ボールにだってたっぷり入っているのよ。」
「ふうん。」
キンモク・セイラはミート・ボールをぱくりと口に放り込みました。
なぜだか 口の中にずっしりとした重みを感じました。
 
屋根裏の自分のベッドの上で
「ガールズ・ダンス」の雑誌を眺めながら
キンモク・セイラは 愛 について考えていました。
ねこのアム−ルがやってきて
キンモク・セイラの膝にのりました。
「やっぱり愛には重さなんてないわ。
だってあたしはアムールをこんなに好きなのに
アムールはちっとも重くなんてないもの。」
キンモク・セイラは アムールを持ち上げると
自分のベッドに入れてやり 眠りにつきました。
 
 次の日曜は、バレエ教室の発表会でした。
キンモク・セイラには花の妖精3 の役が与えられておりました。
キンモク・セイラは朝から胸がドキドキして
朝食のオムレツも半分しか食べられませんでした。
冷凍イワシのようにカチコチになったキンモク・セイラが出かける前に
ママは橙色の香水の瓶を持って来て 
花の妖精3の衣装に1ふき 2ふき しました。
「愛のおまじないよ。」
 
 舞台の幕があがり キンモク・セイラの出番がやってきました。
舞台のまん中で1回ターンをすれば 彼女の役目は終わりでした。
ドキドキしながら舞台のまん中まで出ると
彼女の頭は一瞬真っ白になりました。
その時 衣装のすそからふわりと甘い香りが漂い
キンモク・セイラはその優しさにつつまれるようにくるりとターンをしました。
甘い香りが柔らかい輪を描くように広がりました。d0120991_111144.gif
キンモク・セイラはもう一度ターンをしました。
もう一度! もう一度!
ターン!  ターン!  ターン!
舞台の上は、甘い香りでいっぱいになりました。
とうとう舞台の端までまわり終えると
彼女はバタリと倒れました。
目をまわしながら彼女は 昨日の 愛 について考えていました。
__やっぱり愛には重さなんてないんだわ。
  だってあたしはこんなに軽々とターンができたのだもの!



 外では金木犀の花が
あふれんばかりの甘い香りをふりまいておりました。
花びらは まるではりきりすぎてつかれた小さなバレリーナたちのように
あちらこちらに散らばっておりました。
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『フランスガム花詩集 2005』より抜粋
by francegum | 2008-10-09 01:23 | おはな詩